子供の隠れ無呼吸睡眠は30万人規模。成績低下やADHDの見逃された原因に。

サマリー

  • 小児睡眠時無呼吸症候群は、潜在患者数が約30万人程度と考えられているにもかかわらず、見過ごされている患者が多い
  • 小児睡眠時無呼吸症候群は、成績低下、ADHDリスク向上、高血圧リスク向上、成長阻害をもたらすが、手術によって治療することが可能
  • 小児睡眠時無呼吸症候群を発見するために、3歳児健診、小学校の健康診断を活用すること、ガイドライン作成の取りまとめを提案

詳細

睡眠時無呼吸症候群は、大人のみならず、実は、子供の間にも広がっています。海外データから日本の潜在患者数を推定すると、30万人程度と考えられます[1]。
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中、無呼吸・低呼吸が断続的に起こる症候群で、症状としては、いびき、日中の過度な眠気、熟睡間の欠如、集中力の低下などがあります[2]。日本国内では、2003年に山陽新幹線の運転士が居眠り運転して車両が緊急停止する事故が起き、この病気に注目が集まりました[3]。そして、この病気は、大人のみならず、子供にも広がっているのです。しかし、小児睡眠時無呼吸症候群は、自覚症状の少なさ、認知度の低さから見過ごされていることが多いといわれています。実際、大人の場合は10倍もの潜在患者が存在することがわかっています。

成人と子供とでは、睡眠時無呼吸症候群の原因も異なっており、成人の原因としては肥満が主ですがが、子供の場合は、口蓋扁桃やアデノイド(咽頭扁桃)が肥大し、気道が狭まることが主な原因です[6]。また、大人の睡眠時無呼吸症候群については、ドライバーの事故リスク向上[7]や糖尿病リスク向上[8]、脳卒中、死亡リスク向上[9]といった悪影響が報告されていますが、子供の睡眠時無呼吸症候群についても、重大な悪影響が報告されています。
具体的には、いずれも海外の報告ですが、以下のようなものがあります。

    • 成績低下:いびき・無呼吸の症状を持つ生徒は、そうでない生徒に比べて、数学・言語の成績が進学に不十分とみなされる下位30%になってしまうリスクが、約1.4倍高い[10]
    • ADHDリスク向上:睡眠時無呼吸症候群の子供は、そうでない子供に比べて、多動性・不注意・攻撃性といったADHDの症状に関する指標で問題があるとされるリスクが、約2倍高い[11]
    • 成長阻害:睡眠時無呼吸症候群の子供は、そうでない子供に比べて、インスリン様成長因子結合蛋白3型(IGFBP-3)の循環濃度が有意に低い[12](*インスリン様成長因子は、成長や発達に関わるホルモン[13])
    • 高血圧リスク向上:睡眠時無呼吸症候群の子供は、そうでない子供に比べて、高血圧になるリスクが約4~5倍高い[14]

このように、小児睡眠時無呼吸症候群は、放っておくと重大な影響を及ぼす病気といえます。
そして、上述したように、小児睡眠時無呼吸症候群は扁桃腺・アデノイド肥大によることが多く、手術でこれらを取り除くことで治療することができるのです。手術によって睡眠時無呼吸症候群の約65%が治癒されることがシステマティックレビュー・メタアナリシスによって示されており[15]、米国小児科学会による提言でも、扁桃およびアデノイド肥大患者に対しては、摘出術をまず検討すべきであるとされています[16]。
さらに、手術によって、QOLが改善したり[17]、ADHDスコアが有意に低下したり[18]、インスリン様成長因子が回復したり[19]することが分かっています。

行政は、この見過ごされている重大な睡眠障害から子供たちを救うために対策を打つべきです。発見さえすれば、ほとんどの場合手術で治療できるため、いかに発見するかが大事になります。そこで、3歳児健診、小学校の健康診断を活用すること、ガイドライン作成の取りまとめを提案します。
3歳児健診のマニュアルでは、口蓋扁桃肥大についての所見の取り方についての記載がありません[20]。睡眠時無呼吸症候群の原因になることと、視診により口蓋扁桃肥大を確認する必要性を明記すべきです。
また、学校健康診断では、耳鼻咽喉科学校医がおらず、内科・小児科学校医が対応しているところが多く[21]、見過ごしが多いと考えられます。内科・小児科学校医がいびきや、日中の眠気などの問診とともに、口蓋扁桃の肥大について確認し、小児睡眠時無呼吸症候群と疑われる子供を発見できるようなオペレーションを構築すべきです。米国小児科学会も、コストベネフィットを勘案して、全ての小児に対していびきの有無、睡眠時無呼吸症候群の兆候(口蓋扁桃肥大など)を検査すべきであると述べています[22]。
さらに、日本には、小児睡眠時無呼吸症候群に関するガイドラインが存在しません[23]。小児睡眠時無呼吸症候群は小児科、耳鼻咽喉科、循環器内科、呼吸器内科など複数の科にまたがる問題であり、見過ごしをなくすため、ガイドライン作成が必要です。
行政は、子供の睡眠問題を重要な政策課題と認識し、低成績、集中力低下、問題行動の原因となっている可能性が高い睡眠時無呼吸症候群から子供たちを救うよう、対処すべきです。

出典

[1]Brunetti et al.(2001),Bixler et al.(2009) では小児睡眠時無呼吸症候群の有病率は1~2%程度と言われている。総務省統計局の発表によれば平成28年の0~12歳の人口は13,500,000人であり、この数値の2%は、270,000人であることから、潜在患者数約30万人とした。
[2]榊原博樹. (2000). 睡眠時無呼吸症候群の疫学. 日本臨床, 58, 1575-1585.
[3]『日本経済新聞』,「運転士「睡眠時無呼吸症」か」, 2003 年 3 月 3 日付
[4]Franklin, K. A.et al. (2015)より成人の有病率を5%、総務省統計局の発表より成人人口を1億人として計算し、有病人口を500万人とした。そこから顕在患者数の40万を引き、460万人とした。
[5]矢野経済研究所 在宅医療市場の現状と展望(2015年版)より、大人の代表的治療法であるCPAPの患者数を、大人の睡眠時無呼吸症候群の患者数とした。
[6]千葉伸太郎. (2017). 耳鼻咽喉科医が行う OSA の保存治療の意義. 日本耳鼻咽喉科学会会報, 120(5), 698-706.
[7]Tregear, S., Reston, J., Schoelles, K., & Phillips, B. (2009). Obstructive sleep apnea and risk of motor vehicle crash: systematic review and meta-analysis. Journal of clinical sleep medicine: JCSM: official publication of the American Academy of Sleep Medicine, 5(6), 573.
[8]Botros, N., Concato, J., Mohsenin, V., Selim, B., Doctor, K., & Yaggi, H. K. (2009). Obstructive sleep apnea as a risk factor for type 2 diabetes. The American journal of medicine, 122(12), 1122-1127.
[9]Yaggi, H. K., Concato, J., Kernan, W. N., Lichtman, J. H., Brass, L. M., & Mohsenin, V. (2005). Obstructive sleep apnea as a risk factor for stroke and death. New England Journal of Medicine, 353(19), 2034-2041.
[10]Perez-Chada, D., Perez-Lloret, S., Videla, A. J., Cardinali, D., Bergna, M. A., Fernández-Acquier, M., … & Drake, C. (2007). Sleep disordered breathing and daytime sleepiness are associated with poor academic performance in teenagers. A study using the Pediatric Daytime Sleepiness Scale (PDSS). Sleep, 30(12), 1698-1703.
[11]Gottlieb, D. J., Vezina, R. M., Chase, C., Lesko, S. M., Heeren, T. C., Weese-Mayer, D. E., … & Corwin, M. J. (2003). Symptoms of sleep-disordered breathing in 5-year-old children are associated with sleepiness and problem behaviors. Pediatrics, 112(4), 870-877.
[12]Nieminen, P., Löppönen, T., Tolonen, U., Lanning, P., Knip, M., & Löppönen, H. (2002). Growth and biochemical markers of growth in children with snoring and obstructive sleep apnea. Pediatrics, 109(4), e55-e55.
[13]Forbes, B. E. (2011). Molecular mechanisms underlying insulin-like growth factor action: How mutations in the GH: IGF axis lead to short stature. Pediatric endocrinology reviews: PER, 8(4), 374-381.
[14]Enright, P. L., Goodwin, J. L., Sherrill, D. L., Quan, J. R., & Quan, S. F. (2003). Blood pressure elevation associated with sleep-related breathing disorder in a community sample of white and Hispanic children: the Tucson Children’s Assessment of Sleep Apnea study. Archives of pediatrics & adolescent medicine, 157(9), 901-904.
[15]Friedman, M., Wilson, M., Lin, H. C., & Chang, H. W. (2009). Updated systematic review of tonsillectomy and adenoidectomy for treatment of pediatric obstructive sleep apnea/hypopnea syndrome. Otolaryngology—Head and Neck Surgery, 140(6), 800-808.
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[17]Tran, K. D., Nguyen, C. D., Weedon, J., & Goldstein, N. A. (2005). Child behavior and quality of life in pediatric obstructive sleep apnea. Archives of Otolaryngology–Head & Neck Surgery, 131(1), 52-57.
[18]Huang, Y. S., Guilleminault, C., Li, H. Y., Yang, C. M., Wu, Y. Y., & Chen, N. H. (2007). Attention-deficit/hyperactivity disorder with obstructive sleep apnea: a treatment outcome study. Sleep medicine, 8(1), 18-30.
[19]Nieminen, P., Löppönen, T., Tolonen, U., Lanning, P., Knip, M., & Löppönen, H. (2002). Growth and biochemical markers of growth in children with snoring and obstructive sleep apnea. Pediatrics, 109(4), e55-e55.
[20]国立研究開発法人 国立成育医療研究センター,「乳幼児健康診査身体診察マニュアル」,2018年3月 https://www.ncchd.go.jp/center/activity/kokoro_jigyo/manual.pdf 最終閲覧2018年7月21日
[21]大島清史. (2016). 耳鼻咽喉科学校健診の現状と課題. 小児耳鼻咽喉科, 37(3), 236-240.
[22]Marcus, C. L., Brooks, L. J., Ward, S. D., Draper, K. A., Gozal, D., Halbower, A. C., … & Shiffman, R. N. (2012). Diagnosis and management of childhood
obstructive sleep apnea syndrome. Pediatrics, peds-2012.
[23]2008-2009年度合同研究班報告,「循環器療育における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」,2012

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